梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや
この「万葉歌」を、唐突に思い出したのは、一昨日の明日香「石舞台」のことを記事にしようとしたときだ
先日の「奈良花見巡り」は、「一日一首」に書いたので、
ここでは、「石舞台夜桜」のライトアップのことを書こうとした
そして、パソコンの前に向かった途端、先ほどの「万葉歌」が...
この「万葉歌」、大伴旅人たちの「大宰府、梅花歌三十二首」の一首なのだが、
確かに、明日香の石舞台に「大宰府での詠歌」というのも、思いもしなかった
これまで、明日香には「梅」の季節にはよく通うが、「さくら」の季節に訪れた記憶は、あまりない
間違いなく、この季節にも明日香には来ている
しかし、「さくら」に心を奪われるほどの印象が、ほとんどないのも、妙な話だ
もっとも、奈良であろうが、明日香であろうが、
寒い季節に好んで通うので、はなから「花見」の季節を目的としてはおらず、
結果として、「梅」に意識が向いてしまうのだろう
先日の日曜日、「石舞台夜桜」のライトアップを知ったのは、
奈良の白毫寺、万葉植物園、鷺池などを、たっぷり歩いて、そろそろ大阪へ帰ろうか、と思ったときだった
この季節だから、当然「花見」ツァーのようなものだが、
今が盛りと、咲き誇る「さくら」に目を奪われながらも、
すでに「葉桜」の緑に覆われた「寒桜」の、健気に数輪の花を咲かせ見せる姿に、
改めて愛おしさを感じての、「奈良散歩の一日」だったのだが、
「案内所」で、石舞台のライトアップ、ジャズコンサートのチラシを目にし、
迷うことなく、明日香へ向かう
奈良では、夜遅くなっても、見所は結構あるが、
明日香となると、夜もそこに居るということは、滅多にない
それこそ、今回のように、何かのイベント絡みでもなければ...
今回も、ライトアップが楽しみ、というより
夜の明日香に行ける口実ができた、と言った方がいいのかもしれない
しかし、そこで思いもしなかった「感慨」を得ることになる
それは、石舞台周辺の桜木が、ライトアップされて美しいことも確かにいいものだったが、
私に、もっとも心を惹きつけたのは、遠くに見える「二上山」のシルエットだった
以前、夕暮れの「石舞台から二上山」に魅せられたこともあったが、
今回驚いたのは、すっかり闇に覆われた「明日香」から、漆黒の夜空であるはずなのに、
その「二上山」のシルエットが、はっきりと見えたことだ
「石舞台」の周辺だけは、確かに強烈なライトアップで、見上げる夜空も、星も見えなかったが、
入り口から石舞台に続く石段を上り、いつもの癖で、二上山方向を見遣ると...
夜空と山影が、こんなにも鮮明に見えるものなのか、と大袈裟かもしれないが、感動したものだ
「暗い夜空」と、「黒い山陰」...そこに、明確な「スカイライン」が走る
街の明かりの中では、いくら遠方の山影を求めても、その姿は見えはしない
しかし、明日香の「夜」は、街以上の「夜の美しさ」に満ちている
その背景に見守るように山並みが連なる...
その美しさが故に、誰もが「心のふるさと」と呼ばずにはいられないだろう
そんな気持ちを、この記事で書こうと思ったのだが、
そこに冒頭に書いた「万葉歌」が、浮ぶ
この歌、二年前に、HPでの「歌意解釈」でも、採り上げてはいるが、
その記事では、「本歌」の「参考歌」程度の解釈の仕方だった
それでも印象が強かったのは、「梅花歌三十二首」で、それぞれが「梅花」を詠う中で、
この歌は、「梅の次は桜」などと詠っている
勿論、「歌意」の解釈はそんなに単純なものではないが、
今、この季節は、「さくらの季節」と言って間違いはない、
歌に倣って言い換えれば、「さくらの前に、梅の花が咲いていた」という「過去形」になる
私が、この「石舞台夜桜」のライトアップに誘われたのも、確かに「さくら」だ
しかし、「二上山」を見たときのあの「感動」のようなものが、
まさに今になって、この「万葉歌」を思い出させたのだと思う
「ライトアップ」などという、おそらく「万葉の人」たちには思いもしなかった趣向に、
現代人である私は、不遜にも「いにしへの幻想」などと嘯くが、
それは、あくまで「現代の万葉想い」がそうさせるものだ
「二上山」が語りかけるのは、「お前たちは、今の人たちだ、私は、ずっと昔から...」
いつか、眩いばかりの「ライトアップ」だけじゃなく、
「かがり火」のような「灯かり」での催しもあればなあ、と思った
そして、そのとき見える「二上山」は...「万葉人の見る二上山」に違いない
「石舞台」も「万葉の時代」には、きっと畏怖の気持ちで覆われていたことだろう
そして、その気持ちを持つ人たちが、かがり火の向こうに「二上山」を見る...
そうか...「万葉の人、大津皇子」に想いを馳せる姉・大来皇女のような気分にもなるだろう...
と、この記事を書く前には、こんな感傷的な内容の予定ではなかったはずなのに、
とにかく「奈良・明日香」を楽しめた一日を書くつもりだった
今になって、あのライトアップに...いや、現代人の私には、それも楽しめたから、いいとしよう
奈良鷺池のさくら、石舞台ジャズコンサートをついでに...
さくら...やはり、綺麗だ
そして、そこに魅せられる人たちも、いろいろだが...それもまた、いい