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Channel: 残雪、もとめて
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言葉を振り絞り

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和歌を詠うようなとき、日常の言葉を使うこともあるだろうが、

印象としては、たとえば「歌語」と言われるような非日常的な言葉、いや「語」を使う方が効果的なのだろう

そのことは、漠然とは思っていたが、今日も「万葉集」に触れていて、ふと思いついたことがある


初期万葉集では、いわゆる「万葉仮名」ではなく、漢語表現や、それを真似た表記が多い

専門家ではないので、その「表記論」の詳しいことは解らないが、

確実に言えることは、「テニヲハ」と言われる「助詞」は、表記されていない、ということだ


万葉の時代でも、「万葉仮名」が主流になる時期こそ、その助詞も「音」として表記はされるが、

それ以前では、助詞抜きの「漢字」の羅列であり、意味を持たせた「正訓字」や「借音字」がある

それでも、助詞は表記されていない

だから、もっと言えば、「借音字」自体も、「現訓の万葉集」で正しいのかどうか、完全とは言えない

それは、多くの人が知っていることだが、951年に梨壺で万葉歌に訓を点けられる作業が始まってから、

いかにも「和歌らしい」表現が、研究され註釈が始まった


私が、今日改めて思ったのは、その助詞の表記のない「略体歌」についてだ

助詞の表記がない、つまり助詞の表現を読む者が補うことで、一首を完成させる

当然、表記されている「語句」を、かなりの精度で理解しなければ、

とても合理的な「歌意解釈」にはならないだろう


その上で、助詞を研究者それぞれが、さまざまな言い回し、詠い回しを考える


これは、現代でも同じことが言えると思う

英語や中国語の「文法」の「構文」には、多くの「助詞」がその文脈から自然に備わっている


中国語の「訓み下し文」で使われる、「返り点」が解りやすい

この日本語の語順で読めるように、返り読みを印すのは、まさに「助詞」を補う作業のはずだ


一旦、そのルールを作ると、なかなか「例外」というものは作れない

そこに、言葉の余韻や、あるいは言外の表現を汲み取ることは難しくなる

出来るのは、文章そのものからの理解の上での「論理」になる


ところが、「漢詩」がもともと、そうした本来の表現であることに対して、

助詞抜きの漢字のみの表現である初期万葉集の「略体歌」では、

その助詞を補うために、どうしても「文法」に適った「語句」を作ってしまう


文法に従って読み書きするのは当然のことだが、「和歌」については、

はたして、それで充分なのか、と思うことがある


時々、万葉集の「古注釈書」や、現代の「諸注」において、その文法からの逸脱を、

充分な説明なしに、有り得ることだ、とだけ記すものがある

それは特別なんだよ、何故なら、その表現が「素晴らしいから」とでも言うように...


本当に、そうなのだろうか

何も、特別なことではない、そんな気さえ思う

「略体歌」の当時の訓みなど、誰にも解らないはずだ

ただ、平安時代の歌人や学者たちが、「和歌らしく」表現を再現させようと試みている

そして、当然そこには、日本語の「文法」に沿わない表現、語法もあった、と思う


平常文の間違いようのない「日本語の文法」を、敢えて「崩す」ことも、

私は、「和歌」にはあってもおかしくない、と思っている

倒置法や、連体形止めなど、その一種だと思う

それらも、一応「和歌の技法」にはなっているが、そうしたルールが先行しているからなのか、

あるいは、そう読まざるを得ないものなのか、それは何時頃からなのか...

どこかに、私のそうした疑問を教えてくれる書も、多くはあるだろう

それらを読むことも、勿論必要だとは思うが、

今夜書きたいと思ったことは...「言葉を振り絞る」という思いから...


「振り絞る」ことは、ある意味での極限に近づくことにもなる

そこに生まれる表現に、言葉が使われ、作者の感動が第三者に伝えられる

それこそ、「歌合」などで命懸けの「歌合戦」を繰り広げるようなものだ

勿論、「勝とう」とする「歌合」など、私はあまり興味はなく

むしろ、自身の魂を振り絞って表現しようとする、そのことだけに命懸けの苦悩を持つ「言葉」の魅力


万葉の作者たちが、そんな気概を持っているとか、あるいは持っていないとか、

そんなことは二の次で、当時の漢詩主流の時代に、

表現としては不充分とも言える「和歌」の「語」に、どうして多くの万葉人たちが関わるのだろう...

そんなことを...思いながら、万葉人と、今日も語らう

 


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